日本最西端の与那国島で一人と一頭から始まった南の島の馬暮らし。
そこに集まった馬好きな若者たちが沖縄中に散らばり、
それぞれの馬暮らしを始めています。





バックパッカーと馬④ インド・プシュカル

ナマステ。今回は中東を離れ、混沌の国インドへ。色鮮やかなターバンやサリーと出会う、バックパッカー流インド乗馬をご紹介します。(実際は台風17号の番をしておるのです)
首都デリーの西、パキスタンと国境を接し、タール砂漠を抱える広大なラジャスタン州。マハラジャの宮殿や城が今なお残る都市が、観光地としても有名ですが、そんな中にプシュカルという小さな町があります。デリーから直通のバスもありますし(10時間くらいかかったかな・・)、山を一つ越えたアジュメールというイスラム教の聖地の町へは鉄道も出ています。

プシュカルの町の中心には聖なる池があり、池の周りを囲むように「ガート」と呼ばれる階段状の沐浴場と、バザールと、住宅とが入り乱れ、プチ・カオスな街並みを形成しています。もちろん沐浴場へと続く細い石畳の上にはいたるところ牛の糞。そしてインドの聖なる動物・牛たちが人に混じって通りを闊歩してゆくのです。(夜中に路地裏で突然に巨大な牛に出会ったりすると恐怖です)
この町は年に一度の大ラクダ市でも有名ですが、ヒンドゥー教ブラフマー神を祭る聖地として広くインドに知られた町。聖地であるという事はヒンドゥーの放浪僧や、巡礼者、旅人が常に訪れる土地ということ。インドではこういった町には独特の雰囲気があり、祈りと、喧騒と、静けさと、賑わいがちょうどよく混ざり合い、旅人を惹きつける強烈なパワーを持っています。プシュカルは、歩いて端から端まで回りきれる手頃なサイズや、ラジャスタン特有の色彩も魅力です。

僕が訪れたのはラクダ市の終わった12月から1月の冬。砂漠の国ラジャスタンの夏は強烈な暑さですが、冬の夜などは少し肌寒いくらいでした。泊まっていた安宿の家族が、夜になると集めてきた牛の糞を焚き火にしていたのを覚えています。
この小さな町で素敵なホーストレッキングを敢行しているのはバザールの終点・ブラフマー寺院の目の前にあるお土産屋さんでした。ご主人が馬が好きで、自己流で飼い始めて、乗り始めて、乗馬を提供し始めたとのこと。馬の厩舎が町の外れにあるのですが、僕の宿がちょうどその近くで、宿の息子が「ここでは馬にも乗れるんだぞ」、と軽く教えてくれたのがきっかけで、プシュカル滞在の2ヶ月間、馬に乗ることが毎日の僕の日課となってしまいました。(インドの魅力は物価の安さ!当時は2時間乗って500円くらいでした。今はもっと値段が上がっているはずだとは思います)

今日は東へ。
次の日は町中を通り抜けてからに町の西の方へ。
プシュカルは有名な聖地ではありますが荒野の中の田舎の町。荒地に一筋伸びる乾いた土の道を、馬に乗って町から外へ外へ。しかし(ここは人口10億人を超えるインド)、どんなに田舎へ行っても、更にそこから外へ行っても、地図からはうかがえない、道と、村と、人とがそこには待っていました。手つかず、なんて言ったら失礼ですが、ありのままに。

そんな集落へ馬に乗って足を踏み入れる。ヤギや羊が走り回り、子供たちも素っ裸で走り回り、井戸の周りには水を汲みに来た女性たちが集まっています。彼女たちの着る、鮮やかなサリーやパンジャビードレスが褐色の世界に、とても映えている。強烈な日差しと乾いた大地、家の壁など泥で固めてあるだけ、垣根は潅木の枝を立てて並べただけ。アスファルトやコンクリートのない世界。そんな中だからこそ、サリーが映えて見える。一瞬で視覚にうったえる。
「うわっ、インドだ」と幸せを感じる瞬間。

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人それぞれ、インドで幸せを感じる瞬間があると思うのですが、この場合、このサリーの世界に入ってゆく手段が、馬だったのが、またよいと思うのです。例えばこの集落にジープか何かで砂埃を上げて乗り付けて、車のドアから出てくるのとでは、何か違うと思うのです。音も関係があるのかもしれない。静かに入っていくと、意外と静かに彼女らも迎えてくれる。

プシュカルから出る車道を進んでゆくこともありました。
町へ向う人、町から出て行く人、巡礼、通学、様々な人とすれ違います。車道といっても荒地の中をアスファルトが伸びるだけ、景色としてはやはり褐色の世界。この地方ではいわゆるターバンを頭にまく人が多いのですが、その色がサイケデリックなほどの原色。黄色・青・紫・赤・・・様々な極彩色のターバンがこれまた砂漠に映えるのです。羊飼いだったり、自転車で行く人だったり。馬上から、近づいてきたり、遠ざかっていくターバンを眺める、これが意外と楽しい。
道をひたすらにゆくと、文房具からシャンプーから自転車のタイヤからありとあらゆるものを備えた小さな小さなチャイ屋さんがある。馬上の甘―いチャイが、美味しくないわけがない。


荒野ですれ違う人々を見ていると、このままこの人たちは放浪してどこへでも行ってしまうのではないかと思えてしまいます。そんなことはない、ほとんどの人が、この荒野の中に道なき道と使命を持って通勤したり、通学したりしているはずなのですが。旅の空、たまたま今日はプシュカルに寄っただけ、明日は・・・という風に錯覚させてしまう、ジプシー的な風格が自然にあるのです。(ロマの起源がラジャスタンにあるとも言われています)
自分が馬という移動手段を使っているからかもしれないし、彼らがあまりにも普通に荒野を移動しているからかもしれないし、そのカラフルな民族衣装の奥に音楽や踊りや神秘的な何かが詰まっている様に見えるからかもしれない。

インド・プシュカルでのホーストレッキングは、そんな神秘の国インドを、楽しむ為の、ちょっと変わったツールかもしれません。インドで乗馬?インドっぽくないかもしれません。だからこそ、ツーリストっぽくないインド世界をこっそり見に行けるのです。
デリーのバザールですれ違うサリーとは違う、日本のインドカレー屋さんで見るターバンとは全然違う、原色のインドを見る素敵な乗馬。プシュカルにて数時間のトレッキングから、ラクダとともに行く数日間のサファリまで、是非!(10年も前の話だけど宣伝みたいになってしまった)

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