日本最西端の与那国島で一人と一頭から始まった南の島の馬暮らし。
そこに集まった馬好きな若者たちが沖縄中に散らばり、
それぞれの馬暮らしを始めています。





馬との運動会② 

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 沖縄にも北風が吹き荒れ、人々は寒いと言って背を丸め、馬たちは風に背を向け何食わぬ顔。

 今回は昨年の沖縄タイムスの「唐獅子」のコーナーに連載したエッセイを転載します。子どもと馬・・・子どもとヨナグニウマ、本当に素晴らしい関係を見せてくれます。

 

馬との運動会②

 動物たちと暮らす生活が長いと、彼らから学ぶことが多い。その一つが楽観ということだろう。正確には悲観も楽観もない今だけがあり、その今をいつも心地よく整えることが出来ることである。

 最大瞬間風速81メートルを記録した9月28日の猛烈台風、21号。その爪痕が今も残る与那国島だが、人も馬もまずまず平穏な生活に戻っている。馬は香しき青草に鼻を鳴らし、牧場スタッフたちも3度の食事に笑顔する。

 前号の話の続きをしよう。小学校の運動会での乗馬演技の様子だ。全校生徒10人の小さな比川小学校。だが観客は多く、島中の人が集まって来る。今年の乗馬演技は、7人の生徒が何の飾りつけもしていない裸馬4頭をロープ1本で引いて走って入場するところから始まった。

 校庭の中央で馬を止め、スタートの合図で馬装競争を開始する。馬装とは、馬に鞍(くら)をつけることだ。正確に素早く鞍を付けて騎乗し、ジグザグやジャンプなど障害のあるコースを駆け抜けてゴールを目指す。この順位も、運動会全体の紅白の得点に加算される。

 馬装競争の次は、運動場をめいっぱい使っての大技、小技の披露だ。整然と並んで輪乗り(大きな円を書く)、競馬のように走る駆歩(かけあし)、観客は固唾(かたず)を飲む。子どもたちがこんなに速く馬を走らせるとは!

 最後は校庭の正面に横一列に並んで、決めのポーズ。全員が馬の背の上に立って両手を離し、思い思いのポーズをとった。与那国馬は小さく、その背は狭い。とても難しい演技だ。観客の拍手が鳴り響く。乗馬演技を目当てに毎年観に来る常連のお年寄りたち(昔は馬と暮らしていた)からの拍手はひときわ大きい。子どもたちの笑顔も飛び切り上等だ!

 子供たちは一見、何げなく馬に乗って演技をしているが、これがやってみるととても難しい。練習でうまくいかずに悔し涙を流す子もいた。それでいい。子供たちは知らぬ間に、言葉ではない、心の底から湧き上がる思いを馬に伝えようと、非言語コミュニケーションを発達させていく。それが、その後の人生のコミュニケーションの土台になる。なんと恵まれた子供たちだろう!

2015年10月21日

*これは2015年の運動会での乗馬の様子を書いたものです。